闇を切り裂く刃-精霊の守り人-シーズン1最終回に寄せて

最終回をご覧になって、バルサとチャグムの別れで涙し、地をうるおす慈雨を心地よく感じ、ああ、良かったなあ・・・と思っていたところで、いきなり展開される驚愕のラストシーンに、「え? バルサ、なんてことするの!?」と、びっくり仰天した方、たくさんおられるのではないでしょうか。
それどころか、原作読者は、「なにこれ? バルサはこんな人じゃないよ!!」「ログサム生きてるじゃん!?じゃあ、『闇の守り人』やらないわけ?」と怒っているかもしれませんね。
ここで、シーズン1はおしまい。
あとは1年待ってね、では、あまりにも申しわけないと思うので、私が、このドラマとどう関わり、どう思っているのか、さらには、ストーリーやエピソードがどう改変され、それがなぜなのかをお伝えいたしますね。
ちなみに、『闇の守り人』は、やります。
『闇の守り人』の最も大切な部分は、ちゃんとドラマになります。――ただし、シーズン2ではなく、その後に。
なぜなら、シーズン2で『闇の守り人』をやってしまったら、そこでバルサのクライマックス――心の結末――が来てしまい、それ以降はずっと、バルサはチャグムに関わる脇役状態になってしまうからです。

実は、全22話で「守り人シリーズ」を全部やる、というお話がきたとき、私が真っ先に「困ったな」と思ったのが、そのことでした。
『闇の守り人』は、「守り人シリーズ」愛読者にとって、とてもとても大切な物語ですから、しっかり描いていただきたい。
でも、いったいどうすれば、『闇の守り人』――バルサの心のクライマックス――を最後のシーズンにもっていけるのか。
まずは、そのことを解決しないかぎり、このドラマはスタートできなかったのです。ですから、私は2年前、ドラマ制作者のみなさんと、じっくりそのことを話しあい、みんなで、ひとつの解決案をみいだしたのでした。
解決の糸口は、原作の『天と地の守り人』のカンバル王国編で、バルサが再びチャグムと共に旅をし、カンバルへ帰っていく、というエピソードがあったことでした。
ここに『闇の守り人』を重ねたらどうだろう。
――そう気づいた瞬間、3年にわたるドラマの全体像が浮かび上がってきたのです。

シーズン1では、バルサとチャグムが出会いを描きつつ、バルサがどんな過去を背負ってきたのかを知らせるために、『精霊の守り人』と『流れ行く者』を描く。
シーズン2では、『神の守り人』でバルサのその後を描きつつロタ王国の内部事情を伝えながら、そこに『蒼路の旅人』と『天と地の守り人』<ロタ王国編>を平行して組み合わせ、タルシュ帝国の脅威に立ち向かわざるを得なくなるチャグムの姿を描いていく。
そして、シーズン3で、『闇の守り人』を『天と地の守り人』に織り込みながら描くことで、バルサとチャグム、それぞれのクライマックスが絡み合っていく――そういう全体の構想ができあがったのです。

ドラマと小説は、「見せ方」が違います。
「出来ること」も、違います。
原作を忠実になぞっただけでは、ドラマには命が宿りません。
原作が親なら、アニメやドラマは、その子ども。
原作のクローンではない、それぞれの個性をもってこの世に生まれでた、新たな命です。
シーズン1を見終えたとき、私は思いついて、アニメ『精霊の守り人』をすべて見返してみたのですが、これもまた素晴らしく、それぞれの解釈の違いが、とてもとても面白くて、「原作のふたりの子どもたち」の、伸びやかな命の在り様が心からうれしく、誇らしく思えました。

シーズン1の最終回、ラストシーンでバルサが投げた短刀は、私には、へその緒を断ち切る刃に思えました。
我が子がこの世に生まれ出て、へその緒を断ち切り、元気よく産声をあげた、その声を聴いたような気がしたのです。

シーズン1のバルサは若い。
本当に若くて、愛情の見せ方すら知らないバルサです。
でも、ログサムへの私憤を晴らすのは、あくまでも自分なのだ、とチャグムに見せつけながら、同時に、チャグムが自分に抱いてしまった(そして、自分もチャグムに抱いてしまった)母子にも似た愛情を断ち切って、チャグムを完全に宮に帰し、自分は二度と新ヨゴへ戻れぬ身となる、そういう覚悟をああいう形で示してしまった未熟なバルサが、私は嫌いではありません。
私が描いたバルサも、若い頃は、牙をむいてうなる闘犬のような荒っぽい未熟さで、ジグロを哀しませたのですから。

ドラマの中で、これから7年もの歳月が流れます。
10歳だった小林チャグムくんは、シーズン2では15歳になり、板垣チャグムくんにバトンタッチして17歳まで成長していきます。
つまり、バルサもこれから7歳年をとっていくのです。
原作の、すでに成熟した「オバサン」のバルサではなく、まだ闘犬の片鱗を残した危ういバルサが、これからどんなふうに成長していくのか、私にとっては、それがかなり楽しみな見所だったりします。




本当に正直な打ち明け話をするなら、シーズン1全4話すべてを見終えるまで、私は、これほどのドラマにしていただけるとは思っていませんでした。
脚本は読んでいましたし、セットも見せていただきましたが、それでもこんな、映画と見まごうばかりの壮大なドラマを作っていただけるとは、思っていなかったのです。
志がないと思っていたのではなく、たとえ志があったとしても無理だろう、と思っていました。
異世界を実写でつくりあげるというのは大変なことです。
ハリウッドのような制作環境ではない日本で、様々な制約や厳しい条件がある中で、よくぞここまで作ってくださった。
それが、シーズン1を見終えた、いまの私の偽らざる気持ちです。

原作者であるからこそ、私には、ドラマを見ている間中、製作者たちの声なき声が聞こえていました。
「守り人シリーズ」全12巻を22話で描ききるために、シーズン1に使える話数は、たった4話。
ここは捨てざるをえないが、ここは絶対に描きたい。ここはこう変えるが、ここだけは絶対に変えない・・・。
ぎりぎりのところで苦しみながら、それでもなお、得た環境の中で最良の仕事をするために、真っ向からこのドラマに挑んだ製作者たちの思いが塊になってぶつかってくるような気がしました。
葉擦れの音の中で、もはや亡きジグロと、静かに槍舞いを舞うバルサ。
幼いバルサを寝かしつけたあと、焚火のわずかな灯りで書物を読むジグロ・・・。
そういうシーンのひとつひとつに、私の物語を心から大切に思って描いてくださっている、彼らの声が聞こえてきたのでした。

このドラマをご覧になっている方の大半は、原作を知らない方々です。
ですから、原作を知っている人も知らない人も、みんなが楽しめるドラマにしなければなりません。
私なんぞは、ストーリーをすべて知っていますから、本来ならドラマを見る楽しみが半減しているはずなのですが、シーズン2は、脚本がくるたびに、面白くて面白くてむさぼり読んでしまいました。

シーズン2は、まだ、アニメにもラジオドラマにもマンガにもなっていない『神の守り人』と『蒼路の旅人』『天と地の守り人』<ロタ王国編>です。
広大な草原をキャラバンが行き交い、タカに魂を乗せた呪術師が天空を舞い、大海原にチャグムが船出していきます。
日本のテレビドラマでは、とても珍しい、壮大な冒険ドラマが繰り広げられることになります。
シーズン2は、もうすぐクランクイン。
どんな映像が生まれでるのか、私はいま、わくわくしながら待っているところです。

NHK ONLINEより「精霊の守り人」原作者 上橋菜穂子さんインタビュー